【自然風景式庭園】
自然風景式庭園とは、自然の姿をありのままに模倣するか、あるいはその特徴を損なうことなく濃縮して作り出した庭園のことをいう。日本の夏は蒸し暑いため、住居や庭に涼しさを得るためにさまざまな工夫がこらされた。庭には池をつくり、島を浮かべ、名勝の景観を描写するといったことも試みられた。自然風景式庭園を分類すると、浄土式庭園・寝殿造系庭園・書院造系庭園の三つに分けられる。
◆浄土式庭園
浄土式庭園とは、仏教の伝来とともに浄土思想が芽生え、仏がいるといわれる清らかな死後の世界、極楽浄土を再現しようとしたもので、阿弥陀堂と呼ばれる仏堂があり、その前が蓮池を中心とした庭園の形式をいう。浄土式庭園⇒平等院・法金剛院・浄瑠璃寺など
平等院 | 法金剛院 | 浄瑠璃寺 |
◆寝殿造系庭園
寝殿造は平安貴族たちの邸宅の様式で、障子や御簾を間仕切りにしていたため、ほとんど壁がなかった。風通しのよい開放的な構造は、「家の作りようは、夏をむね(中心)とすべし」(徒然草)とされた京の貴族の代表的な邸宅である。寝殿造系庭園とは、その寝殿の前面に行事や宴遊のために造られた池をもつ庭園のことで、池には遣水(庭に導かれる細い水の流れ)をひき、池の中や水際には※釣殿を建て、納涼の場としたような庭園。寝殿造系庭園⇒神泉苑・大覚寺・金閣寺・仁和寺寝殿など
《※釣殿→納涼のための吹きさらしの建物で、魚を釣るためではない》
大覚寺 | 金閣寺 | 仁和寺 |
◆書院造系庭園
室町時代、公家にかわって台頭した武士が、華やかな貴族への生活の憧れから、寝殿造りを住居に取り入れはじめた。さらに、初期将軍たちが譲位して出家して僧侶になるのが多かったため、しだいに寺院の住坊にあった床・棚・書院といった意匠が取り入れられ、書院造の形式が誕生する。書院造系庭園は、その前庭として発達したもので、その後禅宗や浄土真宗の寺院や近世の貴族の庭として幅広く用いられた形式。書院造系庭園⇒桂離宮・銀閣寺・修学院離宮・二条城二ノ丸・醍醐寺三宝院・本願寺書院・曼殊院・詩仙堂など
銀閣寺 | 二条城二ノ丸庭園 |
曼殊院 | 詩仙堂 |
【枯山水庭園】
枯山水とは、自然風景を石組みを主として表現した庭園の形式。日本は古来より池庭に島を浮かべる山水の写しを庭園の基本としてきたが、水そのものを素材として用いないことによって、ことさらに自然から離れ、その表現を象徴的なものにした庭園。水のない内陸の土地では、池庭を造ることが極めて困難であり、それでも水の表現を希望したために枯山水の形式が生み出されたとみられる。枯山水庭園は、その敷地が山辺であるか、平庭であるかによって桃山時代以前の前期式と、それ以後の後期式の二種類に大別できる。
◆枯山水は古墳から!(前期式枯山水)
山の斜面に造られる石組を配した庭園を前期式枯山水という。※『作庭記』には、古墳の石室近くの作庭に端を発し、それらの巨石が容易に取り除くことができなかったために、逆にそれらを庭に生かしたことが記されている。枯山水庭園は古墳の石が誕生のきっかけになったと考えられている。そして鎌倉時代、新興仏教の禅宗が伝来し、その特有の自然観から石立僧と呼ばれる僧侶が石組みを造りはじめる。中でも有名なのは、夢窓疎石であり、彼の造った西芳寺石庭は、前期式枯山水の代表作といわれている。《※『作庭記』→平安時代後期、世界最古の庭造りのテキストで作者は不詳》前期式枯山水⇒天龍寺・西芳寺・法金剛院など
◆禅宗寺院と枯山水(後期式枯山水)
平坦な地面に石を立てた庭のことを後期式枯山水という。室町時代・応仁の乱のために京都が焼け野原となり、その経済的無力が手伝って、従来の池庭とは全く異なる枯山水の形式が定着したと考えられる。しかし、単に水を引き入れ、池を掘り、木を植えるという造園作業の難しさだけではなく、枯山水は池や川の流れや滝などの風景要素が概念的に表現でき、禅思想の表現の一つとして、禅院の書院や方丈に接する狭小な庭にもっとも適した庭の様式としてもてはやされたと思われる。枯山水には自然風景式庭園にみられるような遊びの要素は全くない。後期式枯山水⇒南禅寺方丈・金地院・大徳寺方丈・大仙院 竜安寺・妙心寺・退蔵院・円通寺など
◆石のない枯山水はない!
石のない枯山水はない。中国の奇岩珍石の愛玩鑑賞や山水画が、日本庭園に絶大な影響を与えたことは推測にかたくない。その中国の影響とは別に、禅思想が輸入されるはるか以前から、日本人は岩石の中に何か精神的なもの、神聖視する気持ちを感じている。岩にしめ繩をはったり、神社の御身体が磐座であったりする。そのような日本人の一般の傾向が基礎になって、禅寺に石庭を作り出すことになったかもしれない。
◆庭の白砂は何のため?
元来、禅宗寺院の方丈南庭は、もともと一木一草のないのが本来の姿であった。砂は庭に雑草が生えたり土が雨のためぬかるんだりするのを防ぐためのものであり、また、白砂が反射する光りは屋内を明るくするのにも役立った。また、貴人の訪問に際してはその通り道に砂をまいた。庭は仏教儀式をとり行うための広場であった。しかし、鎌倉から室町にかけて建築が発達し、儀式や行事が屋内で行われるようになると、庭は使われる空間から見られる空間になったという。白砂だけの庭に石をおき、植物を植えた。
◆大名庭園
江戸時代、武術中心の武家社会に変革が訪れ、特に外様大名は、幕府への謀叛を企てる下心がないことを示すため、藩をあげて遊興に熱中して見せ、幕府への宣伝として、工芸や庭園に力を入れた。その一環として、大名たちによって数多くの庭園が造られたといわれている。金沢の兼六園などは当時の風潮を物語っているといっても過言ではない。
◆「癒し」と「他界」
都市生活に疲れた者にとって、香る花や目に鮮やかな新緑は心を和ませる。このような「癒し」が庭園の魅力の一つになっている。その反面、「癒し」とは対極的な性格が隠されている。「他界」すなわち、死後の風景が見えてくる。浄土式庭園は、死後の世界のほかならない。寝殿造・書院造系庭園にみられる中島は、元来仙人や神が住むといわれる神仙島を再現したもの。さらに、枯山水式庭園にみられる須弥山と呼ばれる石は、仏教においては、あの世に立つといわれる山の再現であり、その他枯山水式庭園の成り立ち自体が、もともと古墳の石が地面に露出したものを利用したものといわれている。庭園は生きている人間の「癒し」であり、死んでからの「他界」でもある。
◆作庭家・重森三玲氏「苔寺について」
苔が美しいことはいうまでもない。苔ばかり賞賛しているのは、カビの生えた餅のカビだけなめて、皮も餡も賞味しないのに似ている。この庭の本当の美しさは、池の地割(形と広さ)で、州浜的な曲線が特に美しい。中島は夢窓疎石が再興時の白砂だけの中島でなければならない。だから中島に生えている雑木林は、一切切り払って白砂の島とすべきである。そうすれば全庭の見晴らしもよくなり、一新する。
上部の枯山水の石組は天下一の美的構成をもつ石組である。この枯山水に対して、近世の飛石が打たれている。これも取り去らなければ、鎌倉初期にできた寺の古調が泣く。文化財は、正しい理解によって、現代人の血とし肉とすることが第一義である。それなくして保存の意味はない。
西芳寺庭園 | 西芳寺庭園 | 西芳寺庭園 |
西芳寺枯山水庭園 | 西芳寺枯山水庭園 | 西芳寺枯山水庭園 |
◆中島について
日本は、海に囲まれた島国であることから、池には必ず島を浮かべ、海島の風景を写すことが理想とされてきた。また、中国の庭園の影響から、仙人が住むといわれる蓬莱山を池に造ることによって、庭園に神秘性をもたせることも盛んに行われた。庭園のテキスト『作庭記』には、中島は盛土によって造ってはならないと述べられ、あらかじめその部分を残して池を掘らないと、水に侵食されて崩れてしまうことが説かれている。
◆作庭記
平安時代後期、世界最古の庭造りのテキストで作者は不詳。
《遣水(やりみず)》野辺の小川や谷山の渓流の姿を造ることが試みられ、それらを遣水といい、高い位の貴族のための寝殿造系庭園の必要条件となる。野原の小川を表現する際は、川の傾斜をゆるくし、石をあまり用いず砂利や砂を敷き、また谷山の渓流を模す場合は、傾斜を強めにして両側に石組みを施す。
《滝》高低差に富む日本の地形は、川とともに滝が独特の風景美を醸し出している。西洋の庭園の水の工夫が噴水に代表されるとすれば、日本の自然風景式庭園における水の扱い方は、この滝に象徴される。
《橋・反橋》微妙に曲面をつけた橋で、主に寝殿造系庭園に用いられ、橋に強度をもたせるためにアーチの形状としたものが、後に形式化したもの。
《橋・平橋》橋を複数かける際、一つを反橋にした場合、もう一つは平面的な平橋として変化をつけることがあり、主に中島へ渡る際に用いられた。
《橋・石橋》日本庭園では、古くから遣水の上流に石でできた橋を用いるならわしがあり、桃山期以前は、自然石をそのまま用いましたが、それ以降は人工的に加工した切石橋が造られ、京都白川で産出される石を用いたものが有名。廊橋(呉橋)岸と中島の間、屋根や腰掛けのついた橋で、西芳寺邀月橋など。
【庭園の分類】
庭園の分類はいろいろな視点から考えられますが、今回の研修資料は以下の分類にしたがいます。【 】内は京都の特別名勝庭園
◆自然風景式
書院造系庭園 【二条城二ノ丸】・【本願寺書院】・【銀閣寺】・【三宝院】・桂離宮・修学院離宮・曼殊院・詩仙堂
◆枯山水
前期式枯山水 【天龍寺】・【西芳寺】
後期式枯山水 【金地院】・【大徳寺方丈】・【大仙院】・【竜安寺】・南禅寺方丈・妙心寺・退蔵院・円通寺
◎参考文献 日本庭園のみかた 宮元健次著
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